田嶋幸三と言えば、ついこの間まで小野剛に交代する前の日本サッカー協会(JFA)の技術委員長であり、代表監督の選定を行ったり、各年代を越えた全体の強化の方針を決めたりする、言わば日本サッカー界のサッカー面での実質的なリーダーだった人物だ。今でも専務理事として記者会見の場に出ることも多く(最近ではオシムの容態を報告する役をやっていた)、川淵会長に次ぐJFAの顔と言える。
というわけで、日本のサッカーファンでは知らない人がいないくらいの有名人である。ゆえに矢面に立たされることも多く、特に五輪世代やユース世代の強化がうまくいっていない場合は、代表監督と並んで「田嶋が悪いんじゃないか」とよく批判されていた。
そんな日本サッカー界を良くも悪くもリードしている田嶋氏のサッカー育成理論について書かれているのが本書である。
「言語技術」とは、複雑な状況をすばやく把握して言葉に表現したり、それを論理的に展開したり、また、長い文章を要約して短かくしたりするような技術である。それはサッカーを論理的に理解したり、ダイナミックに状況の変化するピッチの中では、状況を瞬時に判断し、的確に他の選手や監督とコミュニケーションをとるために役立つという。これは非常に納得させられる話だ。
前半部分は、日本サッカー界の今後のためには「言語技術」の修練が必須であるという観点から、JFAアカデミー福島でのカリキュラムや、S級ライセンス(Jリーグの監督になるには必ず取得しなければならない)の講習内容にもそのメニューにも組み込まれているということが具体例を交えて紹介されている。
後半部分では、田嶋氏の留学経験や、デットマール・クラマーから続く日本サッカーの強化の歴史の中で、「言語技術」がいかに重要だったかということが語られる。その観点からトルシエの再評価や、オシム監督の論理を重視する姿勢なども述べられている。そして、最後は、JFAは頑張ってます的アピールで締め括られる。
読んだからといって人生の役に立つという本ではないけど、日本サッカー界に興味のある人なら読むと面白いかなという本だね。とりあえず、JFAアカデミー福島からどんな選手が出てくるのか楽しみではある。
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