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2007-12-28

桜庭一樹/赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説
桜庭 一樹
東京創元社
2006-12-28
単行本

この小説は、日本推理作家協会賞を受賞し、直木賞の候補と吉川英治文学新人賞の候補にもなり、今年の『このミス』でも2位になり、まさに桜庭一樹の出世作となった作品であり、今のところ一番の代表作になった作品である。この小説のヒットで、最近では桜庭一樹はすっかり流行作家として色々なところで名前を見るようになった。図書館でも大人気で、僕が予約したのは多分半年以上前のことだ。その間に僕の中では桜庭一樹ブームは一段落してしまったんだけど、なんか勿体無いので読んでみた。

で、感想はというと、面白い。ツッコミどころはあるけど、まず地方の旧家の60年間の物語がどんどん進んでいくので、それに釣られて読む方もどんどん読んでしまう。女系家族の三代記で、3つの章ごとに主人公が変わるんだけど、それに合わせて作品の雰囲気も、最初の万葉の話はおとぎ話のように始まって、次の毛毬は漫画のような話、最後の瞳子は私小説風と変わっていくのが面白い。

悪いところを挙げると、最後に取ってつけたようにミステリー要素があるのだが、これは簡単に予想がついてしまうし、あまりいい話とも思えないので、なくてもいいような気がする。あとは、時代の風俗をなぞってみましたという感じのガジェットが浮いている。大鵬、ビートルズ、学生運動といったストレートすぎる単語は、どういう時代かを簡単に示したいのだろうけど、もうちょっと捻ってほしかったかなと思う。

そう言えば、この小説の高評価と佐藤友哉の『1000の小説とバックベアード』の三島賞を受賞したことに対しての異議申し立てを出発点として、東浩紀と桜坂洋が『キャラクターズ』という小説を書いたりしたのだが、この話はいずれまただな。

2007-10-16

米澤穂信/遠まわりする雛

遠まわりする雛
米澤 穂信
角川グループパブリッシング
2007-10-03
単行本

ご存知古典部シリーズ第4作。まだ、書店では見掛けない気がする。売れてないはずはないのだが。それとも売れ過ぎて店に渡ってないのか。

内容は、折木たちが古典部に入部した直後(おそらく『氷菓』の第2章の直後)から、折木たちが2年生になる春休みまでに起こる出来事を時系列順に集めたものだ。一つ一つの章は独立したミステリーになっていて、全体を通した話というのは無いのだが、折木たちの関係の変化を1年間を通じて描いている。特に折木と千反田は、出会いから告白手前まで関係が発展する様子が丹念に描かれていて、千反田の萌え小説としても読めるようになっている。

「やるべきことなら手短に」は、古典部に入部した直後、千反田の扱いに困った折木が千反田の好奇心をそらすためにちょっとしたトリックを使う話。米澤穂信にしては珍しく言い落としが使われている。トリック自体は簡単。千反田を騙したことを後悔する折木がちょっとせつない。

「大罪を犯す」は、千反田の教室で授業の進度を勘違いした教師が生徒に当たり散らすのだが、なぜ教師がそんな勘違いをしてしまったかを後から解き明かすという話。ちょっとトリックが納得いかない。

「正体見たり」は、古典部の合宿先で千反田たちが目撃した幽霊の謎を解く話。ミステリーとしては伏線から解決までがちょっとややこしい。見所は、千反田と一緒に温泉に行くシーン。「一緒に出ましょうね」と千反田に言わせるよねぴーはリビドーに忠実すぎると思う。

「心あたりのある者は」は、ひょんなことから、折木と千反田が校内放送から何が起こったかを推理するという話。短い一文から大きな事件を解き明かしていく様は圧巻。これぞまさにトリックよりロジックの世界。推理作家協会賞短篇部門にノミネートされただけあって、ミステリー短編としては、この短編集の中で一番の出来だ。どうせオチがあるだろうと思ったが、結果的に最後まで突き抜けて良かったと思う。

「あきましておめでとう」は、タイトルのダジャレの通りに初詣に行った折木と千反田が納屋に閉じこめられるという話。折木は里志に落とし物を通じてSOSを発信する。これは米澤穂信お得意のパターンだね。連作短編としては、誤解されたら困るという千反田に対してもうちょっと折木の葛藤が欲しいところ。

「手作りチョコレート事件」は、摩耶花から里志に送られるはずのチョコレートが何者かに盗まれる。責任を感じる千反田のために折木が真相を究明するのだが……という話。これはミステリーを離れて、なぜ里志が摩耶花のチョコレートを受け取らないかというのが主題。この章を好きになれるかどうかで、「遠まわりする雛」全体が好きになれるかどうかが分かれると思う。で、僕は、納得がいかないんだよね。今までの米澤穂信作品と比べると致命的にぬるいと言わざるをえない。里志の方はわかる。端的に言えば、甲斐性がないということだろう。しかし、小説の筋としては、やはり里志はしっぺ返しを食らうべきだろう。今までの米澤穂信の小説はそうだったはずだ。米澤穂信は古典部シリーズに思い入れが強すぎるのかもしれないと思った。

表題作「遠まわりする雛」は、毎年地元の神社の祭で「生き雛」となった千反田に、人数合わせで呼ばれた折木が明確に恋愛感情を意識する話。ミステリー要素はほとんどない。これは、「生き雛」祭の描写と、祭の後、折木が千反田にプロポーズ寸前まで行ってしまうのが見所。「手作りチョコレート事件」に比べると、大分わかりやすい話だね。付き合い始めのカップルが勢い余って結婚後のことを考えてしまうような痛さがある。

全体を通じると、ミステリーとしては面白いが、青春小説としては、やはり、男性側の都合ばかりが全面に出てしまっているような気がする。次は女性陣の逆襲を期待したい。

2007-10-04

米澤穂信の「遠まわりする雛」がどこにもない!

遠まわりする雛
米澤 穂信
角川グループパブリッシング
2007-10-03
単行本

10月3日発売ということで、探し回ったのだが、どこにもない! Amazonは「近日発売」から「通常3~5週間以内に発送します」に直行だし。インシテミルは結構すぐ見つかったのになあ。インシテミルより古典部シリーズの方が売れるに決まっているじゃん! ある程度大きい本屋で米澤穂信の新刊入れないところはマジで潰れた方がいいよ^^

追記:翌日船橋まで遠征して無事ゲット!どうも入荷が遅れているという噂もある。

2007-09-21

米澤穂信/インシテミル

(容赦なくネタバレします。注意してください)

インシテミル
米澤 穂信
文藝春秋
2007-08
単行本

この小説はメタミステリーなところがあって、あまり良いミステリー読みとは言えない僕としては、ちゃんと作者の意図を理解できているのか自信がないのだが、とりあえず思ったことを素直に書いておくことにする。

米澤穂信は、今まで本格ミステリー作家でありながら、本格らしいガジェットやギミックを避け、「日常の謎」派として、青春小説とミステリーをミックスしたような作品を発表し続けているわけだが、今回の『インシテミル』ではベタベタなクローズド・サークル内の殺人ゲームをやるらしい。ちなみに『インシテミル』はThe Incite Millと英題がついていて、それと「淫してみる」をかけたものらしい。

ということで、早速買ってきて読んだのだが、まず、驚いたのが、1ページ目の<暗鬼館>見取り図。クローズド・サークルと言っても、山荘や孤島の洋館みたいな感じなのかと思ったら、幾何学的に17個の部屋が円形に配置されているという異様な建築物。本格というか新本格のノリだ。

ストーリーの概要はこうだ。まず、この暗鬼館に12人の人間が集められる。7日間をここで過ごすだけで2千万円の給与が出るのだが、さらに他人に見つからずに人を殺したら、それが2倍(殺した人数で倍々になる)になる。また、誰かが殺されたときに犯人を当てることができたら(つまり、探偵役になれば)、3倍になる。というわけで、この暗鬼館の中で殺人ゲームが行なわれるわけだが、そこは米澤穂信らしく素直にはいかない。この小説の中では6人が死ぬのだが、2人は自殺で、1人は事故、3人が殺されるのだが、そのうち1人は衆人の中で衝動的に殺される。残りの2人は犯行が一度で行なわれてしまうので、実は大袈裟な装置の割に殺人事件らしい事件は1回しか起きないのだ。

また、この殺人事件のトリックもあまり難しくはない。普通に読めば、大抵の人はわかると思う(細かいロジックはともかく)。暗鬼館に集められた12人にはそれぞれ別の武器が支給されるのだが、ということは、殺害方法と犯人は密接に結びつけられる。逆に言うと、ここにトリックの入り込む余地があるわけで、読んでいる途中でなんとなく犯人はわかってしまう。だから、コテコテのミステリーという割には、犯人当てにはあまり凝っていない。

で、これだけなら、ちょっと失敗したミステリーになってしまうのだが、この小説の面白いところは、終盤、主人公たちがこの殺人ゲームに対して論評を加えていくところだ。このゲームでは、探偵役の推理に対して多数決で犯人が決定され(真犯人でない場合には後で探偵役にペナルティがある)、犯人は監獄に放りこまれてしまう。で、終盤、この監獄に放り込まれた2人がミステリーマニアで、このゲームをミステリーとして見た場合にどうなのか、と話し合う。テーブルに置かれたインディアン人形はクリスティーの『そして誰もいなくなった』が元ネタだとか、部屋に鍵がかからないのは密室が作れないから駄目だとか。部屋に鍵がかからないところは中盤でのホラー要素のポイントだったので、こういう視点の変更は面白い。

しかし、このあと、主人公たちは監獄を抜け出してゲームの世界に戻っちゃうんだよね。そして、犯人を指摘して、いくつかシニカルなオチがあって、日常に戻っていくわけだけど、この流れはどう解釈すれば良いのだろう? とても(新)本格っぽいガジェットではじまったわりに、どんでん返しがあるわけでもなく、叙述トリックがるわけでもなく(見落してないよね?)、かと言って、メタミステリーも途中でやめちゃうし、正直中途半端な印象がある。ヒロインの須和名の存在も謎だ。ある種の傲慢さの象徴なんだろうけど、いまいち存在意義がよくわからない。よねぴーのリビドーをぶつけてみたのだろうか。そう言えば、須和名と関水って千反田えると伊原摩耶花に似てるよね。『身内に不幸がありまして』も名家のお嬢様が出てきてたなあ。

というわけで、まあ、面白かったけど、最後の中途半端感が残った作品だったかな。僕の考えているようなことなんて全て折り込み済みのはずの米澤穂信になぜこんなオチにしたのか聞いてみたい。全体的には、トリックよりロジックで、米澤穂信らしい、ヒネりが効いたところがたくさんある。しかし、なんか「淫してみる」ではないよね、この作品内容自体は。そういう派手さを期待すると肩透かしを食らうかも。

2007-09-10

桜庭一樹/砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet

↑文庫本の方がメジャーだと思うが、ハードカバー版で読んだので。

GOSICKは前哨戦で、ここからが桜庭一樹の本番だ。桜庭一樹があるときふと思い付いて一気に書き上げたというこの作品は、ライトノベルに留まらず、広い範囲の読者からの支持を集め、この作品の評判をきっかけに桜庭一樹は一般文芸の分野にも進出していくことになった。

作品冒頭、二人の主人公のうちの一人海野藻屑(うみのもくず)が新聞記事によりバラバラ遺体になることが示唆される。藻屑は父親の雅愛からの深刻なDVの被害者で、左耳の鼓膜が破壊されて聞こえなくなっていたり、赤ん坊のころに乱暴に扱われて股関節がおかしくなっていて、普段から足を引き摺るように歩いている。「うみのもくず」なんて変な名前もライトノベルでは普通に流されるところだが、この作品では転校してきた海野藻屑の名前にクラス一同が驚くところから物語が始まっている。つまり、作中でもある種の悪意でつけられた名前というふうに解釈されているわけだ。

もう一人の主人公は、そんな海野藻屑になぜか懐かれてしまった山田なぎさ。こちらもあまり幸福とは言えない。父親が亡くなり、兄がひきこもりになり、通販で散財し、家計を圧迫するという環境で、なぎさは中学を卒業したら自衛隊に入隊することを考えている。

短い小説なので、あっという間に最後になるのだが、兄に依存気味でその環境を破壊されることを恐れたなぎさは藻屑を連れ立って家出することを決意する。そのとき荷物を取りに寄った藻屑の家で藻屑は父親に殺されてしまう。藻屑の家の外で待っていたなぎさは藻屑が殺されたことを確信して警察に駆け込むんだけど、相手にしてもらえず、兄と二人で藻屑の死体が遺棄されていると思われる蜷山に登り、遺体を発見し、その後日談が語られて終わる。基本的に冒頭で予告なり暗示されていたとおりに話が進みミステリーらしいところはほとんどない。

面白いか面白くないかで言えば、かなり面白い。しかし、これはライトノベルではなくて純文学だよな。文藝あたりがよく似合いそうな。だから、ライトノベルからこういうのが出てきたとか、ライトノベルも文学に肩を並べるようになったというのは違うと思う。それよりは、単純に純文学が間違ってライトノベルレーベルから出版されたという方がおそらく正しい。面白いのは間違いないが少し寂しい気はする。

2007-09-02

桜庭一樹/GOSICKs III

GOSICKs 3 (3)
桜庭 一樹
富士見書房
2007-04
文庫

GOSICKシリーズの短編集の第3巻。GOSICK本編の6巻直後の話になる。

今回は、一弥が退屈凌ぎにヴィクトリカに物語を語って聞かせ、その物語に対してヴィクトリカが「知恵の泉」により別の解釈を与えるという構成。本編6巻あたりもそうだが、ライトノベル的文体からどんどん離れていって、いかにも小説家らしい語り口になりつつあるなという感じがする。

そして、最後にコルデリアが登場し、4巻でも話題になった王妃ココ=ローズの殺人事件にヴィクトリカが巻き込まれるのではないかと、7巻のちょっとした予告をして終わる。本当にジュピター・ロジェがココ=ローズを殺したのなら、話が面白くなりそうだね。

これでGOSICKシリーズは既刊全巻読んだんだけど、トータルで面白いかというとちょっと微妙な気はするな。全体的にミステリーの部分が少し弱い。1巻、2巻は面白い。3巻、4巻はちょっと退屈。5巻はよく分からない話だし、6巻はちゃんと推理小説するかと思わせて肩透かしなところがある。全体的に中途半端で、なんか、もうちょっとはっきりしたところが欲しかったかもしれない。あまり、桜庭一樹の入門って感じでもなかったかな。

話は逸れてしまうが、少し前に某人気アニメ制作会社でアニメ化されるかもという噂が立ったが本当だろうか。見てみたい気もするが、思いっきりコケそうな気がするな。某社には某ラノベ2作品だけでなく、色々手を出してもらいたい気もするのだが、まあ、でもGOSICKはやめた方がいいかもな。某4コマアニメと違って某ラノベ信者が食いつきそうにないし、エロゲ原作ほど安定したDVDの売り上げも期待できないしな。それにしてもエロゲ原作は秋の某作品で打ち止めにしてほしいものだ。

2007-08-24

桜庭一樹/GOSICKs II

GOSICKシリーズの短編集の第2巻。GOSICK本編の4巻と5巻の間の話になる。

1巻に比べると、本編ではあまり語られなかった人物にスポットライトが当てられたりと、サイドストーリーらしい話で、構成がごちゃごちゃしていた1巻よりは素直に読める。

恋愛、友情のエピソードが多いが、僕はあまり良いミステリー読みではないので、こっちの方が楽しめるかもしれない。4話の「怪人の夏」と6話の「初恋」は捻りが効いていて面白かった。武者小路さんは確実にロリコンだけどね!

それと、あとがきによると、このGOSICKのドラマCDも発売されているらしいのだが、ヴィクトリカの声は、声優界の高橋名人こと斎藤千和だとか。全然嗄れてないじゃん。思いっきりヴィジュアルで選んでるじゃん。やっぱり、こういうのは最初に編集の人が注意しないとな。変な声の設定するとメディア展開やりづらいですよって。

2007-08-16

桜庭一樹/GOSICKs

GOSICKs ―ゴシックエス・春来たる死神―
桜庭 一樹
富士見書房
2005-07-08
文庫

GOSICKシリーズの短編集の第1巻。GOSICKシリーズの前日譚にあたる。前日譚だけあって、シリーズ最新巻まで読んだ後で読むと、話が少し冗長な感じを受ける。書かれた時期が本編1巻と前後しているので仕方がないところもある。短編集ということで、学園内や図書館の同じような描写が繰り返されるので、そういう点もこれを助長しているような気がする。ヴィクトリカと一弥がそれぞれ学園に来たときからの話なのだが、ヴィクトリカが城に閉じ込められたときの話なんかも読みたかった。あと、なんで最後の章が序章なのだろう。

2007-08-10

桜庭一樹/GOSICK VI

GOSICK〈6〉ゴシック・仮面舞踏会の夜
桜庭 一樹
富士見書房
2006-12
文庫

GOSICK Vの続き。無事ヴィクトリカを救出した一弥は、ヴィクトリカと共に豪華列車オールド・マスカレード号に乗って学園への帰路につく。そしてそこで起きた奇怪な殺人事件に巻き込まれていくというストーリー。

ここに来ていきなりフーダニットな推理小説的展開。たまたま同室に乗り合わせた面々が変な自己紹介していくのが面白い。最初に<孤児>と呼ばれる娘があからさまな嘘の自己紹介をしたために、他の人たちも面白がって突拍子もない自己紹介をしていくことになるのだが、後にそれが全くの嘘というわけでもないことが明らかになる。

事件は80ページくらいで終わり、その後は彼らが一人称で事件について証言していくという展開。そこでは事件に関係ない人物も他人に言えないような重大な秘密を抱えていたことが判明する。第一次世界大戦のときに息子を亡くしてから半狂人になってしまった舞台女優、エネルギーの変化に対応できずに破産においこまれて身代わり殺人を行なった炭鉱王と、脇役たちの話も興味深い。

しかし、もっとややこしくミスリードを駆使した展開になると思ったら、読んでいても犯人はすぐわかるし、ヴィクトリカもすぐに言い当ててしまう。そこがちょっと残念。全然関係ない話をしていくなら、話を聞いていくうちに、元の事件がどうでもよくなるくらい変な話になっていくとか、もしくは結局全員事件には関係なくて、もっと謎な事件になっていくとか(まあ、これらもベタだけど)、その手の裏切りがほしかったような気はする。

あと、前回、今回と話の焦点になっている形見箱だが、本物かどうかというのは証明できないのではないだろうか。コルデリアがやったように日記や肖像画程度ならいくらでも捏造できるわけだし。それとも本物はもっと面白いものが入っているのだろうか。まあ、ジュピター・ロジェなんてどうでもいい人物だから本物の中身が明らかになったりはしないんだろうなあ。

そして、この巻を読んで思ったのは、いかにも小説っぽいなというか、小説で物語を語るというところに主眼が置かれたのかなと思った。一人一人証言をしていくところとか、形見箱の中身からジュピター・ロジェの人生を想像していくところとか、小説的な想像力が随所に発揮されているなと感じた。こういうところが、一般小説でも評価を受けている作者の力量の片鱗なんだろうな。

2007-08-05

桜庭一樹/GOSICK V

GOSICK(5) ―ゴシック・ベルゼブブの頭蓋―
桜庭 一樹
富士見書房
2005-12-10
文庫

今回は、ヴィクトリカが聖マルグリット学園から「ベルゼブブの頭蓋」という修道院に突然移送される。ヴィクトリカの父アルベール・ド・ブロワ侯爵がヴィクトリカの母コルデリア・ギャロを誘き寄せるためにそんなことをしたらしいのだが、ヴィクトリカに対して警備も何もないし、コルデリアを探すのもブロワ侯爵が自分で一人一人修道女の顔を確認するというやる気があるのかわからないやり方。まあ、ブロワ侯爵は狂人という設定なので、これでいいのかもしれないけど。

というわけで、一弥もコルデリアも無事目的を果たし、コルデリアはおそらくブライアン・ロスコーとともに何処かへ去り、一弥とヴィクトリカも何とか帰りの列車に乗り込み、以下後編へとつづく。いや、しかし、目的を終えているのだから、あまり後編盛り上がらないのではないだろうか。

「ベルゼブブの頭蓋」ができた理由や、第一次世界大戦のときの話は面白いのだが、本筋があっさりしすぎていて、いまいち。コルデリアと一弥の邂逅くらいかな、見所は。まあ、6巻に期待。

2007-07-27

桜庭一樹/GOSICK IV

今回は、錬金術師として王妃に取り入り、ソヴュールの国政にまで口を出したというリヴァイアサンが相手。彼は20年前に学園の時計塔で死んだはずなのだが、死体は見つかってない。図書館でリヴァイアサンの回顧録を発見したヴィクトリカは、退屈凌ぎに彼の挑戦を受けることにする。

このシリーズは、過去に起きた悲劇を現在のヴィクトリカが読み解くというのが面白い。1巻が第一次世界大戦について、2巻が自分の母親の冤罪について、そして今回はソヴュールの植民地だったアフリカ人の話。回顧録で見せるリヴァイアサンの無邪気さが逆に切ない。

それと、ヴィクトリカの父親の半狂人アルベールの話も出てくる。第一次世界大戦を乗り切るためにリヴァイアサンに人造人間(ホムンクルス)を製造を依頼するが、もちろんリヴァイアサンは本物の錬金術師なんかではないので作れない。アルベールはそういうオカルティズムの信奉者でヴィクトリカの母親コルデリア・ギャロもそうやって利用したということらしい。なんか話が大きくなってきた。

2巻3巻とひっぱってきたブライアン・ロスコーも登場したが、一弥を殴っただけで退場。まだまだ話はひっぱる気らしい。そういえば、2巻でコルデリアの家からロスコーが持ち去ったものが何なのか分からないままだな。なかなか話がややこしくなってきた。まあ、この作品単体でも面白かった。

2007-07-23

桜庭一樹/GOSICK III

GOSICK〈3〉ゴシック・青い薔薇の下で
桜庭 一樹
富士見書房
2004-10
文庫

今回は、ちょっと息抜き回かな。ヴィクトリカが風邪でお休みで、一弥とグレヴィールの二人で事件を解決するという話。ヴィクトリカはたまに電話で助言する。謎解きも凝っているというわけでもなく、今回はキャラの掘り下げがメインという感じ。グレヴィールの髪型の謎やヴィクトリカが一人でいるときの様子などがわかる。あと、一弥も子供っぽくて微笑ましい。

なんか、あまりコメントすることないんだけど、シリーズの作品としては十分面白い作品になっている。まあ、ずっとこのペースでも困るけど。

2007-07-20

桜庭一樹/GOSICK II

GOSICK〈2〉ゴシック・その罪は名もなき
桜庭 一樹
富士見書房
2004-05
文庫

GOSICKの2巻。今回はヴィクトリカの母親の故郷に行き、20年前の冤罪を晴らすという話。山奥の閉ざされた村って好きなんだよね。犯人の気味が悪いところとか、最後犯人が逃げ出して村に火を放つというのもいいし、今回は全体的に雰囲気が好みだった。1巻より2巻の方が面白いでしょう。

前作もそうだったけど、桜庭一樹って物語を作るのががうまいよね。灰色狼と古代セイルーン人の話とか。これはきっと膨大な読書量に裏打ちされているんだろうね。

しかし、前作ではモノローグが独立した話として読めたのだが、今回はなにやら思わせ振りな小話になってしまっている。こういうのあまり好きじゃないんだよね。いちいち付き合うのもしんどいし。

あと、伏線が全部回収されてないな。コルデリアの家から何が持ち去られていたのか、ブライアン・ロスコーなる人物は結局何だったのか、次巻以降へ持ち越しなんだろうか。まあ、次巻が楽しみだね。

2007-07-18

桜庭一樹/GOSICK

GOSICK―ゴシック
桜庭 一樹
富士見書房
2003-12
文庫

桜庭一樹ですよ。ライトノベル出身なのだが、一般小説誌にも寄稿し、広い読者層を持っている、今、最も注目されている作家の一人だ。『赤朽葉家の伝説』で今年の日本推理作家協会賞も受賞した。今の読書生活でも避けては通れない作家だよなあ、と思いつつも、どうも桜庭一樹の作品って、女性が少女についてこってり書いている印象があって、男の自分は作品世界にちゃんと入れるのだろうかと思ってちょっと敬遠していたのだが、『GOSICK』ならラノベだし入門にもいいだろうと読んでみることにした。

で、『GOSICK』だが、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時代で、「ソヴュール」というヨーロッパの架空の国が舞台。これ、架空にする意味あるのかな。特にこの話では第一次世界大戦の話があるので、そこで違和感がある。別に実在の国にしてもよかったんじゃないかな。米澤穂信の『さよなら妖精』も最初のラノベのときの予定ではユーゴスラビアではなく架空の国にする予定だったらしいが、それではあの面白さは出なかっただろう。まあ、しかし、これは余計なお世話か。

それで内容はというと、密室、豪華客船(幽霊船)、死体偽装と、サービス精神旺盛にミステリーのガジェットがふんだんにぶちこまれている。しかし、犯人当てはちょっと単純かな。普通に消去法でいけるから。モノローグでの主語の語り落としがわざとらしすぎる。しかし、その犯人のモノローグも結構面白い。突然、1 の国籍を持つ子供達が集められて無人の船内でバトロワさせられるのだが、その目的は、これから起きるある出来事を占うためのものだったというもの。今回、主人公の一弥とヴィクトリカが巻き込まれるのは、当時の子供達の一人の復讐劇というわけだ。

全体の感想は、ちゃんとラノベ&エンターテイメントしてるなあという感じ。米澤穂信あたりと比べると、米澤穂信の場合はデビュー作の『氷菓』ですでにスタイルが確立していることに驚いたのだが、この『GOSICK』はレベルが高いなと思いつつも、独特の味があるという感じではない。器用に書いているなあという印象。とりあえず継続してシリーズを読んでみる。

2007-07-17

道尾秀介/シャドウ

シャドウ
道尾 秀介
東京創元社
2006-09-30
単行本

これはまたこってりとした本格ミステリーだな。最初は少しホラーの入った家族小説かと思ったのだが、ミスディレクションや叙述トリックが大量投入されていて、犯人当てのようなところもある。極めつけは、最後の意外すぎるオチ。これぞ本格って感じの清々しいトリックだった。

しかし、家族小説として読んだ人はかなり肩透かしを食らったのではないだろうか。中盤までの話の焦点は、最も信頼する父親が精神を病んでいて最悪の犯罪を犯したかもしれないと分かったとき子供はどうするのか、というものなのだが、最後のオチで見事にスカされる。これは、前にレビューした伊坂幸太郎の『アヒルと鴨のコインロッカー』と同じだね。オチは驚くけど、果してそれまで読んできた読者の期待に応えているのかという問題が残る。

まあ、どう読むかだね。表面上はともかく中身は完全に本格ミステリーだから、そう読めばかなり面白い。天童荒太のような小説だと思うと多分がっかりする。しかし、話の展開に引き付けられて一気に読んだので、面白い小説なのは間違いない。

2007-06-29

泡坂妻夫/しあわせの書

逆転裁判のディレクターの巧舟氏が好きらしいというのと、このブログでも再三取り上げている米澤穂信が本書をおすすめに挙げていたので読んでみた。

とにかく読み終わるとかなり驚くらしいということなのだが、そこまで驚くということは、叙述トリックか(主人公が実は犯人など)か、メタ小説(10文字だけで書かれているとか、行の先頭を繋げて読めるとか)なのかなと予想して読み始めた。すると、冒頭いきなり作中作「しあわせの書」についての解説がある。文庫本で1ページ41文字15行というのは、本作『しあわせの書』の体裁でもある。完全にメタ小説のパターンだ。作中作の「しあわせの書」に関するトリックが本書の『しあわせの書』の方にもあるということなのだろう。而して、この予想は、まあ、当たるわけだが、ここから先はネタバレ回避のために触れないでおこう。

で、トリックを見破れたかというと、無理だった。まあ、そんなに熱心に見破ろうとはしなかったんだけど、これを見落すのはかなり悔しい。驚いたかというと、大胆なトリックに気がつかなかったのと、作者の費した労力と馬鹿馬鹿しさに敬服したというところかな。大枠としては予想の範疇ではあった。

しかし、この小説は確かに凄いんだけど、だから何?感も強いなあ。僕はあまりお勧めしないかな。

2007-06-18

レイモンド・チャンドラー/ロング・グッドバイ 村上春樹訳

ロング・グッドバイ
レイモンド・チャンドラー

早川書房

2007-03-08

単行本

村上春樹の新訳ということで話題の本作だけど、清水訳の『長いお別れ』は読んだこともないし、あらすじなんかも全然知らないまま読んだ。

読了してまず思ったのは、これはかなりアクロバテックな展開の小説だなということ。前に読んだ同じ村上春樹訳の『グレート・ギャツビー』くらいの展開かと思ったら、複雑に絡み合った事件は何件も起きるし、最後どんでん返しはあるし、筋を追うだけでも相当しんどい小説だった。

マーロウは、もっと寡黙でクールなタフガイかと思ったから、随分子供っぽいな。気に食わないやつには嫌味を言いまくるし、つまらない意地を張りまくる。饒舌に社会批判を繰り返す。駄目になっていく一方のテリー・レノックスやロジャー・ウェイドにどっぷりと同情し、彼らに最大限の助力をする。思ったより情が深い熱血漢だった。

しかし、なんとも報われない話だよなあ。殺人事件が起きて、身代わりに友人が死に、犯人かと思った人物も死に、真犯人も自殺。マーロウは警察に逮捕されたりしながら、それらの経緯をただ見守ることしかできない。細部に魅かれて読み続けたものの、残りページが少なくなって読んだ話を振り返ったときに、これ本当に面白いのか?と首を傾げてしまったよ。

ただ、最後の最後で、マーロウも読者もある意味で報われることにはなる。テリー・レノックスが生きてて良かったということじゃなくて、タイトル通りちゃんと決着をつけてさよならが言えるという意味で。しかし、テリー・レノックスの空虚さというのは、50年前の小説なのに現代的な感性を感じるね。マーロウが共感と嫌悪の両方を感じるというのは分かる気がする。個人的には『グレート・ギャツビー』のジェイ・ギャツビーよりも面白いというか興味深い。

あと、名台詞が多いと言われる本作だけど、「ギムレットには早すぎる」は、なんでこんなに有名なんでしょうか。確かにキメ台詞ではあるんだけど、いまいち意味が分からない。「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」というのも分かるようで分からない。まあ、名台詞というのは解釈の余地があるところに生まれるものなのかな。

まとめると派手な展開の安っぽさと饒舌な描写と社会風刺と複雑な人間の心理が全部入りって感じのなかなかカオスな小説だった。

2007-06-15

米澤穂信/身内に不幸がありまして

小説新潮に掲載された短編。米澤穂信本人曰く、横溝正史風らしい。横溝読んだことないが、昭和初期の耽美な作風。大きなお屋敷のお嬢様に仕えるメイドが主人公。ある年を境にお嬢様が夏休みに帰省する度に家の人間が何者かに殺されるようになった。犯人は一体誰なのか。行方不明になったお嬢様の兄上なのか、夢遊病のように自分が殺してしまったのか、最後にはメイド自身も殺されてしまう、さて犯人は? と言っても一人しかいないわけだが。

この作品のミソは、『Do you love me?』と同じく、こんな酷い動機で人を殺しちゃうか!?というところ。米澤穂信って、こういうミステリー世界の非人間的なところをうまく使うよね。しかし、こんな作品を書いていると、単行本化されるのは、随分先になりそうだな。

2007-06-04

樋口有介/風少女

風少女
樋口 有介

東京創元社

2007-03

文庫

この作品は、樋口有介の『ぼくとぼくらの夏』に続く2作目で、第103回直木賞候補にもなったらしい。

樋口作品の中でも評価の高い方だと思っていたので、楽しみにして読んだのだが、他の樋口作品を読んでしまっているので、大筋では、まあ、いつも通りの話だなあ、と。他の樋口作品と比べて、特徴的なのは、作者の故郷という前橋市の描写があること、そして、地方都市で鬱屈している若者たちの描写。この辺は、僕も高校まで仙台にいたので、ちょっと分かる。

全体的には、元純文学オタクだった作者の残り香のようなものを感じる。そう考えると、比較的最近の作品は、ちょっとエンターテイメント側で落ち着いちゃっているかなという気はする。『ぼくと、ぼくらの夏』もそうだったけど、ジャンルがちょっとブレている方が面白いかもしれない。

まあ、けど、正直どれも大差ないよなあ。樋口作品のパターンとしては、『ぼくと、ぼくらの夏』と、この『風少女』で全部網羅されているのではないだろうか。あと、この2作品には、ちょっとした構造があるよね。親子と兄弟で繰り返される恋愛の構造みたいなのが面白い。樋口有介を読むなら、この2作品で十分という気はする。

2007-05-22

樋口有介/刺青白書

刺青(タトゥー)白書
樋口 有介

東京創元社

2007-02-21

文庫

柚木草平シリーズ5作目にして、柚木草平が主人公じゃないという番外編。そして樋口有介の作品としては珍しい3人称の作品でもある。本作の主人公は三浦鈴女(すずめ) という女子大生。親が美空ひばりにちなんで付けた名前らしい。柚木草平も第二の主人公として出てくる。つまり、青春小説と中年ハードボイルドという樋口有介の2大看板を合体させたような小説で、今回は事件もなんと4件も発生し、容疑者も常時3〜4人くらいいる状態で、なかなか椀飯振舞な内容である。

トリックは、今回も他の樋口有介の作品と同じく、昔因縁のあった人物関係を解き明かしていくというもので、本格もののように読者が推理できるものではないが、いくつか面白い仕掛けもあり、ミステリーとしても楽しめる。

しかし、作者はあとがきで柚木草平について「あんたちょっと、恰好よすぎないかね」と言っているが、柚木草平はよりセクハラ化がすすんでいるようにしか見えない。きっと作者がカッコよく書こうと思えば思うほど、柚木草平はセクハラオヤジ化してしまうのだろう。柚木草平は冴えないけど、実はちょっとモテるくらいがちょうどいいと思うのだが。毎度少年キャラはカッコいいんだけどね。

さて、あとは、風少女を読めば、創元の第1回配本は全消化になる。正直どれも同じような話というのは否めないが、不思議とどれを読んでも面白い。これはきっとファンになってしまったということなんだろうな。