2007-08-02

アジアカップ総評 その2 戦術について

大会終了から日が経って、色々新聞や雑誌(サッカーマガジン、サッカーダイジェスト)を読んでから書いたのでリアクション的な意見が多くなってしまった。読む方もそんな感じで読んでいただきたい。ぼんやりした意見も多いが、天下のオシムに戦術で文句が言えるほど、恐れ知らずではないので・・・

守備について

今大会、日本は駒野が怪我で抜けた初戦のカタール戦以外は、最終ラインを右から加地、中澤、阿部、駒野の4バックで固定した。マークはオシムが千葉時代によく使っていたマンツーマンではなくゾーン。さらに両SBは高い位置を保ち、CBの中澤、阿部とボランチの啓太の3人で守備を行なうことも多かった。

この4バックが、アジアカップでのオシムの理想主義が最も表われたところだろう。これまで代表は相手が2トップのときは3バック、1トップのときは4バックと使い分けてきた。しかし、この大会では相手が2トップでも2人のCBで対応した。マークがゾーンだったのも暑さ対策というのもあるかもしれないが、マンツーマンでは相手に合わせて守備の人数が多くなりすぎてしまうというのもあるだろう。オシムは何度か、ボランチを1人にしたいという発言もしており、また、千葉時代には両SBをMF登録にするということもしばしばあり(つまり、登録上2バックになる)、オシムの理想では、チームの中で守備専の選手は3人までにしたいというのがあるのだろう。

で、6試合7失点。準決勝のサウジ戦では3失点。サカダイで中東の記者たちにはザル守備で1対1で抜くのは朝飯前と馬鹿にされたこの守備陣だが、実のところ流れの中で崩されたというケースは少ない。UAE戦の失点とサウジ戦の3点目くらいだろう。この二つにしても、ボランチの対応もまずさや、SBの戻りの遅さの問題もある。一概にCBの選手の責任とも言い切れない。つまりこれがオシムの言うリスクということなのだろう。

一番の課題は、やはり最も多い失点のケースだったセットプレーでの守備。オシムは本大会に入るまでほとんとセットプレー練習をしておらず、この辺もオシムが勝ちを最優先したわけではないことが伺える。それと、SBの守備。サイド攻撃をSBに強く依存する現在のフォーメーションでは仕方がないのだが、SBの守備がしっかりしていれば防げた失点もあった。結果論だが、SBの攻撃もあまりうまくいっているとも言えなかったので、加地、駒野と両方攻撃的にいくのではなく、阿部を左SBにして、駒野、坪井、中澤、阿部とする4バックも見てみたかった。これなら3バックにもスムーズに移行できるしね。

でも、オシムはこれが機能するのがわかってた上で、あくまで理想を目指したんだろうなあ。そういうことを考えると、一概に選手を責める気にはなれないんだよね。オシムも少々の失点は計算に入れていたと思うし。まあ、こうやってチャレンジしたことで、通用するところしないところは見えてきたんじゃないかな。これからも効率のよい守備を追求してほしい。

攻撃について

グループリーグのときは面白いように点が取れたが、決勝トーナメントに入ると、FW、MFの得点はオーストラリアの高原のゴールだけ(サウジ戦のゴールは中澤と阿部)と、守備の選手を極限まで減らした結果としては少し寂しい。

これには色々な要因があると思う。トーナメントに入って、一番の得点源だった高原はしっかりマークされたし、オーストラリア戦と韓国戦では相手に退場者が出て、あからさまなPK戦狙いの守備をしてきたし、連戦の疲労もあった。温度は35度を越え、湿度は60〜80%という過酷な環境の中で省エネサッカーだったというのもある。

しかし、人数をかけているわりにアイディアのないパス回しが多かったのも事実。俊輔、遠藤、憲剛という布陣は、疲れていてもテクニックとアイディアを発揮できるとオシムは期待して起用したはず。FWにマークがついてスペースを埋められると、手詰まりになることが多かったのは残念。でも、素直にクロスを上げるのではなく、ファーで折り返すとか、裏に飛び出すとか変化をつけられている部分もあった。特に韓国戦はチャンスを作るところまではできていた。だから、結果は出てないけど、機能していたところもある。うーん。やっぱり攻撃に関するコメントは難しいな。どの試合も羽生がちゃんと決めていれば勝っていたわけだし……。

フォーメーションについては、初戦と3位決定戦で高原の1トップ(山岸が左サイド)、その他の試合では高原と巻の2トップだったわけだが、試合を見た感じでは2トップの方が機能していた。高原を活かすためには盾役の巻がいた方が良かったというのもあるし、山岸は逆サイドからゴール前に走りこむのが得意なのに、右サイドからは全然良いクロスが上がらなかったという問題もある。どうしてもゴール前は高原頼みになってしまうところがあるので、現状高原を起用する場合は、2トップにせざるを得ないわけだが、1トップ、もしくは、3トップをオプションとして持ちたいというのも分かる。何度か矢野を使ってのパワープレーも成功しなかったしね。ちょっと前の3バック、4バック論争もそうだったけど、単純に機能するフォーメーションを固定にすればよいという話ではない。少し前までJのチームは3バックばかりだったのに、今ではJ1もJ2もほとんどのチームは4バックになっている。1トップが主流になることは考えづらいが、チーム戦術として身につければ、少しは高原頼みから脱却できるかもしれない。

個の力が課題みたいな言われ方をしているが、W杯予選を考えると、それまでに個の力が急上昇するはずもなく、もうちょっと戦術的なところでカバーする必要があるだろう。個人的にはこのメンバーで環境が万全の状態でのサッカーも見てみたい気もする。松井、三都主、山瀬を入れると、遠藤か憲剛を外さなければならないということで、折角のポゼッションが下がってしまうかもしれない。この辺は悩ましいところだ。

選手交代について

結果だけ見ると、選手交代後にチームが得点したケースはなく、あまり交代がうまくいっているとは言えない。高原、俊輔の二人は直接点に絡める能力が高く、遠藤、巻も戦術的な役割をこなしており、この4人のバランスは良かったのだが、新しく入ってきた選手に合わせて全体のバランスを変えることができなかったように見えた。例えば、巻から寿人に交代したとしても、当然寿人は巻の役割をこなすことはできない。FWが高原と寿人の二人になったときに両方機能しなくなる場面もあり、周りとの連繋ができていないように見えた。この辺は采配の問題というよりは、選手が交代したときのパターンをチームでもっと磨く必要があるだろう。

その点、オシムが交代選手として羽生をよく使うのはよく分かる。個人としての能力はともかく、戦術理解度が高く、周りが羽生に合わせるのではなく、羽生が周りに合わせてプレーできる。決められなかったが、毎試合決定的なチャンスを作っていた。他の選手も羽生のようになれとは言わないが、途中出場で試合の流れを読み、周りの選手と連繋するというのも一つの技術として考えるべきだし、交代選手を機能させるというのもチーム戦術の一つということだ。

選手交代の遅さも目立ったが、これもまた難しい。トーナメントに入ると延長もあるし、過酷な環境の中、いつ選手がダウンするとも限らない。その中で相手の退場で数的優位になる試合が何度かあったが、こうなると折角有利な状況なのだから、選手交代でそれを台無しにしたくないという意識も働く。人が多いんだから、先発陣もうちょっと頑張れよと言いたくはなる。選手交代というのは最も結果論で語られるところだけに、オシムも色々と反論したいのではないだろうか。

余談だが、日本は今大会で4つも相手選手が退場した試合があった。日本の質の高いパス回しに相手が苛立ったのだろう。最終予選でも同様のケースが出てくると思われる。10人になって自陣の守りを固めた相手をどう崩すのかというのも今後、重要な戦術的課題になりそうだ。

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