ご存知古典部シリーズ第4作。まだ、書店では見掛けない気がする。売れてないはずはないのだが。それとも売れ過ぎて店に渡ってないのか。
内容は、折木たちが古典部に入部した直後(おそらく『氷菓』の第2章の直後)から、折木たちが2年生になる春休みまでに起こる出来事を時系列順に集めたものだ。一つ一つの章は独立したミステリーになっていて、全体を通した話というのは無いのだが、折木たちの関係の変化を1年間を通じて描いている。特に折木と千反田は、出会いから告白手前まで関係が発展する様子が丹念に描かれていて、千反田の萌え小説としても読めるようになっている。
「やるべきことなら手短に」は、古典部に入部した直後、千反田の扱いに困った折木が千反田の好奇心をそらすためにちょっとしたトリックを使う話。米澤穂信にしては珍しく言い落としが使われている。トリック自体は簡単。千反田を騙したことを後悔する折木がちょっとせつない。
「大罪を犯す」は、千反田の教室で授業の進度を勘違いした教師が生徒に当たり散らすのだが、なぜ教師がそんな勘違いをしてしまったかを後から解き明かすという話。ちょっとトリックが納得いかない。
「正体見たり」は、古典部の合宿先で千反田たちが目撃した幽霊の謎を解く話。ミステリーとしては伏線から解決までがちょっとややこしい。見所は、千反田と一緒に温泉に行くシーン。「一緒に出ましょうね」と千反田に言わせるよねぴーはリビドーに忠実すぎると思う。
「心あたりのある者は」は、ひょんなことから、折木と千反田が校内放送から何が起こったかを推理するという話。短い一文から大きな事件を解き明かしていく様は圧巻。これぞまさにトリックよりロジックの世界。推理作家協会賞短篇部門にノミネートされただけあって、ミステリー短編としては、この短編集の中で一番の出来だ。どうせオチがあるだろうと思ったが、結果的に最後まで突き抜けて良かったと思う。
「あきましておめでとう」は、タイトルのダジャレの通りに初詣に行った折木と千反田が納屋に閉じこめられるという話。折木は里志に落とし物を通じてSOSを発信する。これは米澤穂信お得意のパターンだね。連作短編としては、誤解されたら困るという千反田に対してもうちょっと折木の葛藤が欲しいところ。
「手作りチョコレート事件」は、摩耶花から里志に送られるはずのチョコレートが何者かに盗まれる。責任を感じる千反田のために折木が真相を究明するのだが……という話。これはミステリーを離れて、なぜ里志が摩耶花のチョコレートを受け取らないかというのが主題。この章を好きになれるかどうかで、「遠まわりする雛」全体が好きになれるかどうかが分かれると思う。で、僕は、納得がいかないんだよね。今までの米澤穂信作品と比べると致命的にぬるいと言わざるをえない。里志の方はわかる。端的に言えば、甲斐性がないということだろう。しかし、小説の筋としては、やはり里志はしっぺ返しを食らうべきだろう。今までの米澤穂信の小説はそうだったはずだ。米澤穂信は古典部シリーズに思い入れが強すぎるのかもしれないと思った。
表題作「遠まわりする雛」は、毎年地元の神社の祭で「生き雛」となった千反田に、人数合わせで呼ばれた折木が明確に恋愛感情を意識する話。ミステリー要素はほとんどない。これは、「生き雛」祭の描写と、祭の後、折木が千反田にプロポーズ寸前まで行ってしまうのが見所。「手作りチョコレート事件」に比べると、大分わかりやすい話だね。付き合い始めのカップルが勢い余って結婚後のことを考えてしまうような痛さがある。
全体を通じると、ミステリーとしては面白いが、青春小説としては、やはり、男性側の都合ばかりが全面に出てしまっているような気がする。次は女性陣の逆襲を期待したい。
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