有川浩は、電撃小説大賞後すぐにハードカバーの一般小説の方に進出し、この図書館戦争シリーズを中心に活躍している異例の作家だ。しかし、桜庭一樹や米澤穂信など、ライトノベル出身の作家の活躍が増えているし、今後もこういう傾向は続くと思われる。
しかし、この小説、ちょっと微妙だよなあ。まず、SFとして見ると設定にツッコミどころが多すぎる。本の検閲をめぐる国と図書館の対立が、何人も死者を出すような軍事衝突まで発展するのか、という点は目を瞑るとしても、国側がこんなに規制を強化する動機が分からない。少なくともポリティカル・コレクトネスや教育の問題だけでは、こんなことにはならないだろう。現在の各種メディアの規制もそれぞれの業界の自主規制がほとんどだし、日本にはキリスト教保守派とかも別にいないしね。
検閲で押収される書籍の損失のせいで、本の値段が2倍以上にも高騰しているというのも変だ。ネオリベやリバタリアニズムが流行りの現代、そこまで産業界に打撃を与えてまで、国が予算をかけて規制を行なうだろうか? 管理社会化が進んで検閲システムが発達するという方向なら分かるが、それなら作者を逮捕すればいいだけだ。しかし、制作者には罰則はないという。これでは、国が何をやりたいのか分からない。
そもそも出版社側も国の検閲をクリアしてから本を作ればよいのではないか、とか、出版社の自主規制がより発展するのではないか、というのもあんまいツッコミを入れてはいけないところか。
要するに国が仮想敵なんだよね。非常に都合の良い敵になっている。このあたりは、図書隊への感情移入を妨げているね。
で、ストーリーなのだが、作者が月9ドラマ風と自ら言っているのだが、教官と訓練の恋愛もの(途中から上官と下級兵士の関係になるが)というのは、スチュワーデス物語のノリなんじゃねーか? そう考えると、大袈裟な設定も大映ドラマのアホらしさに通じるものがあるし、作者はそっちを目指しているのかもな。しかし、素で読む分には月9より古臭い。最近は皆ベタ好きだからなあ。こういうのがウケるのかもなあ。
と、いつものように文句ばかり書いてしまったが、作者の力量はかなり高い。こんな荒唐無稽な話を細部まで書ききってしまうのだから凄い。読んで楽しめる作品なのは間違いない。
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