村上春樹の新訳ということで話題の本作だけど、清水訳の『長いお別れ』は読んだこともないし、あらすじなんかも全然知らないまま読んだ。
読了してまず思ったのは、これはかなりアクロバテックな展開の小説だなということ。前に読んだ同じ村上春樹訳の『グレート・ギャツビー』くらいの展開かと思ったら、複雑に絡み合った事件は何件も起きるし、最後どんでん返しはあるし、筋を追うだけでも相当しんどい小説だった。
マーロウは、もっと寡黙でクールなタフガイかと思ったから、随分子供っぽいな。気に食わないやつには嫌味を言いまくるし、つまらない意地を張りまくる。饒舌に社会批判を繰り返す。駄目になっていく一方のテリー・レノックスやロジャー・ウェイドにどっぷりと同情し、彼らに最大限の助力をする。思ったより情が深い熱血漢だった。
しかし、なんとも報われない話だよなあ。殺人事件が起きて、身代わりに友人が死に、犯人かと思った人物も死に、真犯人も自殺。マーロウは警察に逮捕されたりしながら、それらの経緯をただ見守ることしかできない。細部に魅かれて読み続けたものの、残りページが少なくなって読んだ話を振り返ったときに、これ本当に面白いのか?と首を傾げてしまったよ。
ただ、最後の最後で、マーロウも読者もある意味で報われることにはなる。テリー・レノックスが生きてて良かったということじゃなくて、タイトル通りちゃんと決着をつけてさよならが言えるという意味で。しかし、テリー・レノックスの空虚さというのは、50年前の小説なのに現代的な感性を感じるね。マーロウが共感と嫌悪の両方を感じるというのは分かる気がする。個人的には『グレート・ギャツビー』のジェイ・ギャツビーよりも面白いというか興味深い。
あと、名台詞が多いと言われる本作だけど、「ギムレットには早すぎる」は、なんでこんなに有名なんでしょうか。確かにキメ台詞ではあるんだけど、いまいち意味が分からない。「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」というのも分かるようで分からない。まあ、名台詞というのは解釈の余地があるところに生まれるものなのかな。
まとめると派手な展開の安っぽさと饒舌な描写と社会風刺と複雑な人間の心理が全部入りって感じのなかなかカオスな小説だった。
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