↑文庫本の方がメジャーだと思うが、ハードカバー版で読んだので。
GOSICKは前哨戦で、ここからが桜庭一樹の本番だ。桜庭一樹があるときふと思い付いて一気に書き上げたというこの作品は、ライトノベルに留まらず、広い範囲の読者からの支持を集め、この作品の評判をきっかけに桜庭一樹は一般文芸の分野にも進出していくことになった。
作品冒頭、二人の主人公のうちの一人海野藻屑(うみのもくず)が新聞記事によりバラバラ遺体になることが示唆される。藻屑は父親の雅愛からの深刻なDVの被害者で、左耳の鼓膜が破壊されて聞こえなくなっていたり、赤ん坊のころに乱暴に扱われて股関節がおかしくなっていて、普段から足を引き摺るように歩いている。「うみのもくず」なんて変な名前もライトノベルでは普通に流されるところだが、この作品では転校してきた海野藻屑の名前にクラス一同が驚くところから物語が始まっている。つまり、作中でもある種の悪意でつけられた名前というふうに解釈されているわけだ。
もう一人の主人公は、そんな海野藻屑になぜか懐かれてしまった山田なぎさ。こちらもあまり幸福とは言えない。父親が亡くなり、兄がひきこもりになり、通販で散財し、家計を圧迫するという環境で、なぎさは中学を卒業したら自衛隊に入隊することを考えている。
短い小説なので、あっという間に最後になるのだが、兄に依存気味でその環境を破壊されることを恐れたなぎさは藻屑を連れ立って家出することを決意する。そのとき荷物を取りに寄った藻屑の家で藻屑は父親に殺されてしまう。藻屑の家の外で待っていたなぎさは藻屑が殺されたことを確信して警察に駆け込むんだけど、相手にしてもらえず、兄と二人で藻屑の死体が遺棄されていると思われる蜷山に登り、遺体を発見し、その後日談が語られて終わる。基本的に冒頭で予告なり暗示されていたとおりに話が進みミステリーらしいところはほとんどない。
面白いか面白くないかで言えば、かなり面白い。しかし、これはライトノベルではなくて純文学だよな。文藝あたりがよく似合いそうな。だから、ライトノベルからこういうのが出てきたとか、ライトノベルも文学に肩を並べるようになったというのは違うと思う。それよりは、単純に純文学が間違ってライトノベルレーベルから出版されたという方がおそらく正しい。面白いのは間違いないが少し寂しい気はする。
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