野生時代に連載していたものをハードカバーに単行本にしたということで、ちょっと大人向けの作品。成就することない恋愛の代替として7人の男と交わった川村優奈。その優奈の美しい娘、川村七竃(ななかまど)がこの小説の主人公だ。7人の男の誰が父親か分からないはずなのだが、七竃は成長していくにつれ、幼馴染のこれまた美しい少年、桂雪風に「かんばせ」(顔つきのことだ)が似てくる。どうやら、桂雪風と川村七竃は異母兄弟だったらしい。つまり、7人の男のうちの一人が桂雪風の父親だったのだ。そのうち、似てくるどころか、顔が瓜二つになってくる。彼らが住んでいる旭川という地方都市では、彼等のような複雑な関係は社会的に許されないだろう。というわけで、最終的には追われるようにして、七竃は東京の大学に進学する。
と、七竃の視点で見ればこういう話なのだが、実のところ本当の主人公はやはり母親たちということになるだろう。川村優奈と周りの人間たちの価値観の捻れが面白い。川村優奈は関係を持った7人の男のうち、7人目の嘘吐き男の優しさに特別な「無意味さ」を感じて、そのとき近くにあった七竃の木に因んで娘に七竃という名前を付けるのだが、本当の七竃の父親はさらに何の思い入れのない4人目の美しいだけの男だった。しかし、優奈の友人であり、雪風の母親でもあり、その「かつて美しかった男」の妻である桂多岐にしてみれば、それには複雑な想いがある。結局、最後は多岐が優奈を殴り倒すんだけど。
また、優奈は七竃を生んで7、8年後に本命だった田中先生とひょんなことから再会し、情事に及ぶのだが、そのときの男の生々しさと、優奈の半分冷めてしまった悲しさみたいなものが、女性作家らしい視点で書かれている。この辺の感情は正直よく分からないが、興味深い。
あと、最後の優奈と七竃の対話も面白い。優奈は、田中先生との再会後、旅ばかりして子供の世話などはほとんど放棄しているのだが、「きっと、尊敬してほしいのね。(中略)誰よりも、血を分けた娘に」と無茶苦茶なことを言ったりして、これがまた面白い。「女の人生ってのはね、母をゆるす、ゆるさないの長い旅なのさ」なんて言う人生の機微に振れているような台詞もまた興味深い。
この小説は、親子、友人、異母兄弟と、構造がしっかりしているところが面白さに繋がっているんだろうな。GOSICKの最後の方もそうだったが、物語の構成力があるなあと感じる。
しかし、いまいち釈然としないところもある。顔が瓜二つな七竃と雪風の二人のナルシシスティックな関係が外因より崩されて、つまり、自分の半身が分かれることで成長するというのは、成長物語としてはちょっと単純かなあという気がする。萩尾望都『半神』とかね。
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』でも、最後になぎさと兄が山に登って藻屑の死体を見て帰ってくるというのは『スタンド・バイ・ミー』なんかと同じで非常に分かりやすい成長物語だった。こういうことを考えると、やっぱり、純文学としては、いささか素直過ぎるような気がしてしまう。かと言って、ライトノベルでもないしね。そういう意味では微妙な小説だよね。
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