2007-02-21

機本伸司/神様のパズル

神様のパズル
機本 伸司

角川春樹事務所

2002-11

単行本

この作品は2002年の第3回小松左京賞受賞作品で、映画化、ゲーム化も予定されているという話題作。精子バンクを利用してできた天才児のヒロインとバイトに明け暮れるダメ学生の主人公のコンビが、宇宙の作り方を探るというストーリー。まあ、コーディネイターとナチュラルのコンビだね。穏やかに話が進むと思いきや、農家の手伝いをしたり、その農家の人が病気で死んだり、思い詰めたヒロインが本当に宇宙を作ろうとしたり、父親は身近なところに?と、意外とサスペンスフルな展開になる。

と、真ん中くらいまでは面白く読めたんだけど、終盤、作者が息切れしているのが分かって、ちょっと残念だった。特に終わり方がよくない。最後、ヒロインは、飛び級で入った大学を退学し、本来の学年の高校に入り直し、精子提供者の父親も見つかり、親子3人で幸せに暮したというのだが、こんな結末は、ウンコ食らえである。

まず、高校に入り直すというのが駄目だ。人生はやり直せばいいというものでもないし、後戻りできるものでもないのだ。卒業したところに、もう一回入ってどうする。それに年相応のことをやるのが正しいなんていうのは、まさに社会の抑圧じゃないか。大人に大人になれというならともかく、子供に子供らしくしろ、なんて言うことには従う必要はないのだ。

青春小説で、こういう常識的な健全性なんていうものを押し出すというのよくないと思う。はっきり言えば、説教臭い。SEEDの例えをもう一度出せば、出自を呪い、親を殺し、人類を抹殺しようとしたクルーゼ様の方がまだマシである。キラ様が最後までクルーゼに反論できないとよく揶揄されるが、反論できないからこそ、SEEDはかろうじで作品として成立しているのである。もし、クルーゼが改心してラクス派になったら幻滅もいいところだろう。この作品には、そういう駄目さがある。

それと、この作品は、SFの新人賞である小松左京賞を取ったわけだけど、SFとして見ると、もっと言いたいことが出てくる。

用語はよく調べているのだろうけど、フレーズが応酬するわりに、論理展開に飛躍が多すぎて、議論が空回りしているような気がする。嘘のガジェットの上に正確な論理を展開するのがSFの作り方だとすると、本当のガジェットの上に不正確な論理を展開しているという感じ。ジャンルとしては、SFよりホラーの方が近い(そう考えるなら、一番最後の穂瑞の研究は全部嘘だったかもしれないという結末はちょっと面白い)。ディベートを追求するなら、途中にあった「宗教信者 vs 創造主はいるけど宗教否定派 vs 神様も科学万能も否定派 vs科学万能主義」の部分をもっと深く掘り下げた方がよかったと思う。

あと、理系大学出身者として言わせてもらうと、主人公が勉強しなさすぎ。結局、ほとんど物理学を勉強も研究もすることなく、物理学の社会的役割となんていう哲学的な卒論を2日で書き上げるというのは、それって典型的ダメ学生じゃんと言いたくなる。それで「いいこと言った感」を演出されても冷めるだけだ。

さらに言うと、理系の大学院進学率が50%を越えると言われる現在(東大や東工大は90%を越えるとか)、研究室の学生の進学に対する意識が低すぎる。4人中3人が就職で、残った一人も「彼は二浪で、就職も厳しいことから、大学院への進学を希望している」とか、大学院ナメすぎだろ、とツッコみたくなる。

あと、他のツッコミどころとしては、途中、宇宙の創造から未来までをコンピュータでシミュレーションするんだけど、シミュレーション中で、未来の人類が新しい物理学の理論を編み出して宇宙の生成を行なうという場面があった。そんなことができたら、それこそ、統一理論どころではない、世紀の大発見だよ。なんか、フィクションの中のコンピュータって適当だよな。

全体の感想としては、SFのふりをして、SFの魂がないというか、文系の人が想像して理系のことを書きました感が強すぎるね。決してつまらない小説じゃないんだけど、読む前の期待と実際のギャップを感じる小説。

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