2006-12-24

米澤穂信/春期限定いちごタルト事件

これは面白いっす。一応連作ミステリーの形式なんだけど、劇的な事件が起こるわけでもなく(これをミステリー用語では「日常の謎」と言うらしい)、淡々と話が進むわけだけど、抑制の効いた一人称と豊富な語彙で丁寧にキャラクターを描写していて、非常に心地良く読める小説です。

個々のエピソードは本格ミステリーっぽい謎解きが中心なんだけど、謎自体は結構予想がつきます。これは謎が単純というよりは、推理のミスリードがなく、ヒントが的確(すぎる?)なのが原因で、全然悪い印象はないです。きっと、こういう公平さが作者のこだわりなんでしょう。

主人公の小鳩君は、頭がよく回りと口が達者なんだけど、過去になんかトラウマ的なことがあり、トラブルを避けて小市民を目指しているという設定。ちょっと西尾維新の戯言シリーズのいーちゃんっぽいかな。ヒロインの小佐内さんは、小鳩君以上に周囲に注意を払い、トラブルから徹底的に身を隠すことを心掛けている。しかし、その実体は、自分に危害を加える者に仕返しすることに快感を覚えてしまう、復讐狂とでも言うべき性格だったのだ!

この設定がいいよね。普段はおどおどしているのに、復讐となると途端に嬉しそうにする小佐内さんを想像するだけで面白い。まあ、実際にそれほど苛烈な復讐をすることはなく、そんな描写はないんだけど。復讐と言えば、最近読んだ清水マリコのゼロヨンイチロクとネペンテスにも遠山遠美という復讐娘がいて、これもよかった。そのうち復讐っ子っていうジャンルができるかもね。

難点を言えば、連作短編集としては、全体の流れの伏線が個々のエピソードから独立しすぎていて、あまり連作の良さがないかなって思う。一つの話を分解して、それぞれの短編にちりばめただけって感じ。もっと有機的に短編同士が結合するような感じだったら、なおよかったと思う。

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