先日、容疑者Xの献身を酷評してしまった(というほどでもないが)のだが、じゃあ、容疑者Xに負けた他の作品はどうだったんだろうと思って、この年の「このミス」2位だった「扉は閉ざされたまま」を読んでみることにした。
この作品は、容疑者Xの献身と同じく所謂倒叙もの。主人公の伏見亮輔が、同窓会で後輩の新山を殺害する。この事件を、伏見の後輩の妹で昔伏見となにやら関係があったらしい碓氷優佳が探偵役となって事件を暴いていくというストーリー。
この作品がミステリーとして特徴的なのが、扉は閉ざされたまま、というタイトルの通り、犯行現場に入る前の段階が話のメインだというところ。部屋から出てこない新山について、部屋の中で何か事故があったのか、それとも単に寝ているだけなのか、伏見と優佳の駆け引きが展開される。結局、優佳は密室を開ける前に伏見が犯人だと見抜き、扉を開けたところで物語は終わる。他にも伏見の犯行動機、伏見がなぜ伏見が死体の発見を延ばしたがっているのか、などの謎もあり、地味な話なのに、なかなか飽きさせない。
しかし、この伏見の犯行動機というやつが、なんとも理解しがたい。伏見は、臓器提供マニア(?)で、臓器提供意思表示カードを所持している新山が、東南アジアで売春を繰り返していることが許せなかったというのだ。性病などで臓器が汚れるから、らしい。所謂「ミステリー時空」ってやつだ。しかし、容疑者Xの献身のレビューでは、本格の嘘臭さを隠蔽できていない点を指摘したが、この作品は、うまくミステリー時空をコントロールしている。
象徴的なのが、ラストで、容疑者Xの献身では、犯人の石神が泣き崩れるという情けないラストだったが、この扉は閉ざされたままでは、最後探偵役の優佳が、さりげなく伏見の犯行のミスを指摘し、暗に自分との交際をせまる。探偵の方が犯人より冷徹だったとう、ある意味が清々しいオチ。
全体の感想としては、扉は閉ざされたままの方が容疑者Xの献身より面白いと思うんだけど、逆に容疑者Xの献身の出来の良さが分かったような気がする。この作品では、直木賞は取れないね。最後は石神が泣かないと、大衆小説にはならないということだね。難儀な話だ。
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