2007-07-30

アジアカップ総評 その1 選考について

結果論になってしまって恐縮だが、アジアカップの日本代表の選考や戦術について、思うところを述べておきたいと思う。ツッコミどころは満載だと思うが、素人の戯言なので、流すところは流してください。

選手の選考については、実のところ、僕はほとんど不満はない。ないこともないのだが、それは後で述べるとして、一つ一つ順に考えていこう。

海外組について

まず、海外組。松井、三都主、稲本、中田あたりを招集しなかったことに不満を持っている人も多いだろうが、ここにはオシムの一貫した考えが見える。オシムは彼らの能力に優劣をつけているわけではない。チームでしっかりとレギュラーとしての地位を確立しているかどうかが重要なのだ。

一人一人見ていくと、松井は、怪我で昨シーズンの大半を不本意な状態で送り、今シーズンは新監督の元、一からの出直しという状態だ。三都主は、冬に移籍し、まだまだレギュラーを座をしっかり射止めているとは言い難い。代表候補に選ばれた稲本と中田は、昨シーズンはレギュラーとして活躍していたが、アジアカップ選考の時点では、中田は次のシーズンのどのチームでプレーするか決まっていなかったし、稲本はフランクフルトに移籍が決まったばかりだった。

このことは稲本と中田の落選の際にもオシムが述べている。また、海外組を全く招集しなかった去年、高原と俊輔が海外で過去最高の成績を収めていることも注目すべきだろう。無理に海外組を招集するより、彼らが海外でも通用するようにプレーを向上させることが、長期的には日本代表にとっても良いことなのだというオシムの考えが見える。

国内組について

次に国内組だが、これはちょっとややこしい。まず、考慮しなければならないのは、闘莉王と播戸の離脱だ。闘莉王は、オシムジャパン当初からDFの要として起用されてきた。同じ浦和の啓太や阿部、坪井との連繋も期待されていただろう。今年は相次ぐ怪我で十分代表に参加できているとは言い難かったが、結果論で言えば、彼がいないことが日本にとっては最も影響が大きかったかもしれない。

播戸も豊富な運動量を活かした前線からの守備と高い決定力、チームのムードメイカーの役割も考えれば、離脱は痛い。彼の不在が、単調と言われたアジアカップでのオシム采配にも影響を及ぼしたと思われる。

そして、重要なのはオシムがここでも継続性を重視したということだ。選ばれたメンバーは、ほとんどが去年から代表、もしくは、クラブで安定したパフォーマンスを重ねてきた面子だ。オシムは、アジアカップは若手に経験を積ませることも考えていると語っていたが、実のところ、信頼していて計算できるメンバーばかりをずらりと並べたことになる。サプライズ気味に招集された太田も結局使われることはなかった。オシムは、アジアカップを自身が1年間代表で組み立ててきたことの集大成として位置付けていたに違いない。

前田、山瀬、野沢、岩政、家長、長谷部、大久保あたりが選ばれなかったことに不満を持つ人が多いと思うが、一人一人を見ていくとメンバーから除外された理由が見えてくる。前田は、実は去年も代表に招集されているのだが、怪我で今シーズンの序盤を棒に振ってしまったのが痛い。野沢も同じ。長谷部、家長は今シーズン、チームでレギュラーとして定着しているとは言い難い。大久保、山瀬の今シーズンの活躍は目覚ましいが、昨シーズンからの継続性というところでオシムの構想から漏れたのだろう。岩政は、同タイプの闘莉王、中澤で十分と考えられていたのだろう。

もちろん、彼らを呼ぶべきではなかったと言っているわけではない。ただ、このアジアカップで招集されなかったのも、ある程度納得ができるということだ。

千葉枠について

オシム批判で最も多いのが、千葉枠と言われるジェフ千葉の選手の多さだろう。しかし、僕は常々この批判はおかしいと考えていた。オシムは、ジェフ千葉時代の実績で代表監督に選ばれたのだ。Jリーグのチームの監督だったというアドヴァンテージは最大限利用すべきだ。3年間も毎日のように練習してきた選手と、時折集まって合宿するだけの代表選手では戦術理解に大きな差がでるのは仕方がない。出身チームだというのに、一人も選手を選出しなかったら、そちらの方が驚きだ。それに、千葉は監督が交代した現在は低迷しているが、オシムが監督のときはJリーグの強豪チームだったことも忘れてはならない。オシムは千葉の選手の使い方を心得ているのだ。現にアジアカップでも山岸はいまいち機能しなかったが、巻と羽生については戦術的な(最低限)役割を果たしたと言えるだろう。

また、オシムは、練習の際に千葉の選手を怒鳴り付けることが多いという。他意のない個人批判でも、選手のプライドは傷付けられるかもしれない。だから、千葉の選手を使って他の選手とも間接的にコミュニケーションを計っているのだろう。

オシムジャパンが発足してから1年を過ぎて、オシムの考えるサッカーが浸透し、彼らの出番も減るかもしれない。しかし、そうであっても、以前を振り返って、彼らは代表には相応わしくなかったとするのは間違いだ。代表の選考に贔屓に対する批判や公平さを求めるのはわからなくはないが、オールスターではないのだからチームとして考えた場合に彼らの果たす役割を冷静に考えるべきだろう。

では、オシムの選考に問題がなかったのか?

これまでの議論では、ややオシム擁護の論調になってしまったが、では、アジアカップの選考は本当に正しかったのだろうか? 上の方でほとんど不満はないと述べたが、2つの点でオシムの選考に疑問がある。

一つは、あまりに継続性を重視しすぎていることだ。サッカーというのは、ミクロなところでもでもマクロなところでも計画性と即興性の二つの面がある競技だ。組織的な守備が機能することもあれば、一人の個人技でそれが崩壊することもある。監督を固定して何年も熟成してきたチームが、監督が交代したばかりの即興チームに敗れることもある。一人のヒーローが登場して、あれよあれよとカップ戦を勝ち上がってしまうこともある。オシムがあまりに保守的な選考や選手起用をしたために、チームに勢いがなくなってしまった面もあるだろう。本当に勝ちに行くなら、今、勢いのあるフレッシュな選手も選んでおくべきだった。大久保や山瀬を選んでいれば、チームに勢いをもたらせたかもしれない。一人くらいオシムの言うことを無視するような選手がいても良かったかもしれない。それがサッカーという競技の不思議な側面なのだ。結果論だが、オシムはこの「サッカーのカオス」をコントロールすることに失敗したのかもしれない。

もう一つは、オシムは口ばかりで若手の選手を全然選ばなかったことだ。U-20W杯があった世代は仕方がないとしても、五輪世代がほとんど選ばれなかったことは残念だ。確かに五輪代表常連組はチームでなかなか結果を残せていないのだが、これから行なわれる五輪最終予選に向けて、オシムの考えを直接伝える場もあった方が良かったと思う。個人的には、家長、梶山、青山直あたりの縦のラインは呼んで欲しかった。調子の良いときの彼らなら十分A代表のバックアッパーになれるだろうし、特に家長はガンバでも途中出場で何度も試合の流れを変える活躍をしている。A代表でもスーパーサブとして十分活躍できる実力があるはずだ。

結局、アジアカップでのオシムの選考は一体何だったのか

厳しいことを言えば、結局のところオシムは、アジアカップを完全に勝負にも行かず、かと言って、若手育成の場にもしなかったと言える。では、オシムの選考は一体何だったのか。それはオシムの考える理想のサッカーの実現を目指したということになる。最もオシムのサッカーを理解し、実現できるメンバーがあの選手たちだったのだ。つまり、極端なことを言えば、オシムはアジアカップでシビアに結果を追ったわけでもなく、将来のために若い選手を育成をするわけでもなく、自身のサッカーのロマンを求めたのだ。

これは悪いことではない。オシムは66歳という高齢で、あれだけ世界のサッカーに精通しているのにもかかわらず、まだ、サッカーに対して野心があり、ロマンティストでいられるのだ。僕はジーコ退任後、まだオシムが代表監督に就任する前に、協会はオシムにオファーを出すべきだと思ったし、オシムはそれを引き受けるだろうとも思っていた。オシムは千葉で毎年のように主力選手が離脱していくことを苦とも思わず、選手を育成し、自身の戦術で強豪チームに対抗することに楽しみを見出していたようなところがある。極東のJリーグで監督をしつつも、欧州の試合を細かくチェックし、最先端のサッカーへの指向、野心を失なっていなかった。そういうオシム監督だからこそ、自身のサッカーが本当に最先端のサッカーに通用するかどうか、日本代表を率いてW杯に殴り込むという仕事にきっと魅力を感じるだろうと思ったのだ。

しかし、彼のロマン主義はアジアカップ4位という形で見事に敗北してしまった。周りも、以前のようにオシムのロマンを許すほど寛容ではなくなるだろう。一部では解任を求める声も出るかもしれない。そういった現実主義を前にして、オシムがどういった決断をするのか、楽しみにしつつも、固唾を呑んで見守りたいと思う。

次エントリーに続きます。

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