2007-03-07

小川一水/第六大陸1、第六大陸2

第六大陸〈1〉
小川 一水

早川書房

2003-06

文庫

第六大陸〈2〉
小川 一水

早川書房

2003-08

文庫

第35回星雲賞日本長編部門を受賞作らしい。神様のパズルが、SFとしてはハズレだったので、評判の良い第六大陸を読んでみた。

御鳥羽総合建設という建設会社に勤める青峰走也と、レジャー企業エデン・レジャーエンターテイメント社の創業者の孫娘の桃園寺妙の二人を中心に、月面に結婚式場を建設するという壮大なプロジェクトをめぐる群像劇だ。登場する企業や人物が日本のものに限られている点、さらに、民間の企業に限られている点は、ちょっとプロジェクトXっぽい。

宇宙開発にブルーカラーが挑む、というと、プラネテス(作者の幸村誠は、この小説の表紙と挿絵を描いている)とMOONLIGHT MILEを思い出すが、特に建設というところに話を絞ったあたりは、MOONLIGHT MILEからの影響が強いと思われる。反対に最近のMOONLIGHT MILEは、プロジェクトXっぽい展開になっているので、影響を与えあっているのかもしれない。

しかし、MOONLIGHT MILEでは、宇宙開発でもアメリカの力が強く、結局月基地は米軍が占拠してしまうというネガティブな展開であるのに対して、この作品では世界の将来について非常に楽観的である。政治家のネット投票で利権がなくなり、発電パネルの大規模な展開と緑化運動の促進で環境問題が大幅に改善するという感じで。と、ほんとかよ、言いたくなるくらいポジティブだ。バラ色の未来を見せることで、現在の問題点を炙り出すという手法なのかもしれない。

もう一つ面白いのが、この小説の舞台設定は、2025年から2037年なのだが、2025年の時点でも、月面に基地を作ることは、人類にとって、ちっとも不可能ではないということだ。NASAは火星への有人飛行を計画しているくらいで、技術的な壁はない。では、話の焦点は何かというと、なぜ、わざわざ月なんかに基地を作るのか、というモチベーションの問題と、そんなものを作って経済的に割りが合うのか、という現実的な問題だ。

1巻では、これらの問題の解決が計られることになる。ヒロイン桃園寺妙が月面結婚式場というアイディアを立案し、ロケット技師の泰信司が従来のロケットの10倍のペイロードを持つというトロフィーロケットを開発し、主人公の青峰走也は、月面作業機械マルチブルを開発する。このあたりは、細かい技術的な話が多くて、面白い。それにしてもこの作者、ノリノリである、って感じだ。

2巻では、一転して、プロジェクトに様々な問題が襲いかかる。月面開発にNASAが参入し、月に商業施設を建設することは国際法に抵触すると、アメリカに訴えられたり、スペースデブリのせいで、泰信司が死亡、マスコミからバッシングを受けたりと、散々な感じだ。一応、それぞれ解決したことになっているのだが、このあたりは、ちょっと詰めが甘いかもしれない。特に裁判で、NASAの長官が日本側の証人に立つというのは苦しすぎるだろう。

そして、最後の最後にあっと驚く展開が! ここまで徹底的にリアル路線で来たのに、こうくるかー! という感じ。しかし、個人的にはアリだと思ったね。ただのシミュレーション小説じゃなくて、SF小説なんだということなんでしょう。

全体的な感想としては、技術的なところは、非常に面白く読めたんだけど、ヒロイン関係の話は、あまり面白くなかった。SFとしての面白さと、群像劇としての面白さが不釣り合いな感じがする。人物関係の表面をなぞっているような印象を受けた。面白かったんだけど、この作者の他の作品を読もうという気はしないな。

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