春期限定いちごタルト事件、夏期限定トロピカルパフェ事件に続いて米澤穂信のさよなら妖精を読んだ。
この小説は、ユーゴスラビア紛争をモチーフにしている。スロベニア独立の2ヶ月前の91年4月が物語の始まりとなっている。91年かあ、おれ、どうしてたかなあ。ストリートファイターIIばっかやってたような気がする。そのころ、ユーゴスラビア紛争なんて全然気にしてなかったよなあ。
ユーゴスラビアと言えば、サッカーでは日本に非常に関係が深い国なので(クロアチアは98年、06年と2度W杯で対戦。名古屋で活躍したストイコビッチはセルビア共和国出身。現日本代表監督のイビチャ・オシムはボスニア・ヘルツェゴビナ出身)、今では、それ経由で紛争のことはある程度知っているし、最近まで紛争や難民のニュースが絶えないところだから、耳にすることも多い。
もちろん、91年高校生の登場人物たちは、ユーゴなんて何も知らない。そんなところから始まって、ユーゴ人のマーヤと出会い、「日常の謎」を解きつつ異文化交流をするのが、前半の話。これはこれで魅力的な話なんだけど、後半、その日常がユーゴスラビア紛争と否応なく接続したときに、その日常と紛争の対比が、主人公たちの戸惑いや憤りをうまく表わしていて、主人公の感情にすんなりと同調することができた。素直に素晴らしい小説だと思うね。
文体はやっぱり非常に抑制が効いていて(ここで言う抑制というのは、表現が控え目ということではなくて、ちゃんと相対化されていると言うべきかな)、安心して読める感じ。あと、ちょっと下品な話をすれば、マーヤが異邦人ということで、うまく萌えキャラの記号性が隠蔽されているよね。素朴でリアクションが大きいという「属性」が、外国人だからと理由付けできるみたいな感じ。もう一人のヒロイン、大刀洗もクールキャラという定型な枠組みと、そこからの崩しがあって、いいね。やっぱりライトノベルというのは(この作品をライトノベルと言っていいのかは分からないが)、いかに記号を取り入れるか、そしてそこからいかに崩すかというところがポイントなんだなと思った。下品な話だけど。
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